闘う! ウイルス・バスターズ 最先端医学からの挑戦 (河岡義裕,渡辺登喜子)

ウイルスで有名な河岡先生と渡辺先生の本.今,研究者に進むか,会社に務めるか迷っている人(特に生命系)が居たら,読んでみることをおすすめします.研究者が必ずしも小さい頃から「その道」を選んでいるわけではなく,環境によって,色々進路が分かれてきた様子が見て取れます.特にII部の3章のネイチャーに載るまでの紆余曲折や,II部4章の研究者による研究者の紹介(人生談)は楽しかったです(この章に限らず,渡辺先生の章は,旦那さんとの会話など生活感があって,和みます.女性で研究者を考えている人は参考になる所があるかもしれません).

「おわりに」の所で,河岡先生が実際に執筆した人の名前を出しているのは,多くの本がゴーストライター(と呼んで良いのか分かりませんが)を表に出さない中,河岡先生の真摯な態度が出ていて,好感がもてました.

闘う! ウイルス・バスターズ 最先端医学からの挑戦 (朝日新書)
河岡義裕 渡辺登喜子
朝日新聞出版
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「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (宮川 剛)

ゲノムと脳の関係は,私自身の興味でもあり,楽しく読めました.
また,著者の宮川先生の研究で作成されている「網羅的行動テストバッテリー」は,私が大学院生だったか,助手時代だったか忘れましたが,参加させていただいた科学研究費の会議で,その話を拝見し「これはすごい!」と感動したのを覚えています.多くの発表が遺伝子ひとつに着目する中,「データを網羅的に取る」という意味の重要性を本当に理解している研究者なのだと,その時思いました.

本書の中は,ゲノムと行動の関係について,入門からスタートし,体験談を含めつつ,分かっている事を順に説明しています.前半が入門,中盤は23andmeによる検査の話を挟みつつ,後半はSNPs(一塩基置換)と行動に関して,分かっている事を列挙している形です.これから,まだまだ分かることは増えていくでしょうが,現時点でのパーソナルゲノム時代に向けて分かっている事を整理してある本として,良書であると思います.

ビジネスのためのデザイン思考

この本と次の本はビジネス書です.いずれもタイトルは異なりますが,主軸としている内容は一緒で「ものつくりは成熟してきた.これから重要なのはそれらを活かすストーリーだ」というストーリーを主軸にする考え方で,ストーリーを考えることで,意味あるものつくりができるでしょう,という話です.研究者の実験計画やデータ解析も全く同じなので,文言を読み替えながら読めば,十分参考になる点は多いと思います.

デザイン思考という言葉を初めて本書で知ったのですが,amazonとかを見ると,何冊かあるようで,知られている言葉なのですね.僕の感じとしては「ビジネスモデル」と呼ばれていたものが陳腐化してきたので,色をつけて「デザイン思考」と焼き直しているように感じます.本書でも後半は「ビジネスモデル」の説明が多々入っています.

本書の利点は,図示が全般的に的確で非常に読みやすいです.雰囲気をつかむには,非常に良い本でした.それに対して,具体例はあまりありません.後半が具体例になっているはずなのですが,私には後出しジャンケンな雰囲気が感じられました.
本書の主題の中に「不確実な状況の中で,ストーリーを作成し,ソレを遂行するためのパーツは,柔軟に組み替える」という事があるとおもうのですが,最も難しいのはストーリーを設定することだと思います.既存の「ものつくり」は,今あるものを発展させる(例えば,CPUという既存の物の速度を速くするとか)事に主眼がおかれ,このような状況では物事を演繹的に考えていけば,次に行うことがわかったわけですが,現代では演繹的に考えても次に行うことがわからず,「何をすべきか」を考えた上で「アブダクション」をしないといけない状況になっている.やはり何をすべきかをどのように見つけるかは難しいなぁと思います.この点は,次に示す本の方が,よりつっこんでかいてあります.
本書は,この点の指摘してある方法や内容は非常に読みやすいので,どのように現代になって問題が変わっているのかを知る人には,読みやすく,良い本だと思いました.

ビジネスのためのデザイン思考
紺野 登
東洋経済新報社
売り上げランキング: 17210

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

本書はビジネス書ではあるのですが,著者が脳神経科学で博士号を有しており,本書の内容も随所に研究の話が出てきます.なので,研究者にもおすすめです.
特に,プロジェクトを進めたり,論文を書いたりする上で,ストーリーを作って,それに必要なパーツを考えるために軸を整理する方法や,定量分析には「比較」「構成」「変化」の切り口があるなど,参考になるknow-howがあるとおもいます.研究をする,あるいは,プロジェクト運営をする上で,いずれも必要なスキルなのに,大学などでは教えられることが無いものですので,このような本は参考になります.

本書にあったほうがよかったなぁと思うものに,索引があります.本書の中には有用な図や単語が多いと思うのですが,索引が無いのは後から辞書的に使うときに使いにくいです.その分目次がしっかりしているとも言えるのですが,索引が欲しかったです.

また,全般的に,十分わかりやすいのですが,前述したビジネスのためのデザイン思考の後に読んでしまうと,全般的に無機的で冷たい感じを受けました.両方の本の良いところが合わさると,最高の本なのになぁと思います.