リサーチハック本?:素人のように考え、玄人として実行する(金出武雄・著)

CMUの金出先生の本。研究者のためのビジネス書、啓蒙書、と言うべきか。ライフハックならぬリサーチハックと言うべきか。

本の中には48の短編ストーリーが書かれており、それぞれ、ざっくばらんに研究者は何を考え、どのように行動しているのか(すべきか)が書かれている。
人工知能・ロボット系の用語が突然現れるので、分野違いの方には多少とまどう事もあると思うが、研究者一般に通ずる話がほとんど。
研究者を目指す人、研究者の卵の人、研究者としての初心に立ち返りたい人など、一読してみることをお勧めする。

特に印象に残ったのは次の内容

  • アイディアを人に話すと盗まれないか
    • アイディアを他人に話した時の効用を金出先生は3つに分類する。(1)相手はすでに知っている。(2)相手は興味が無い。(3)相手に先を越される。(3)が問題になるが、その場合でも次のように斬るブログなどを通じて、議論がオープンに広がる世界を目の当たりにすると、アイディアを話すことで研究の先を越されるのは確かに怖いが(生物系などで数年かかる実験と、輪廻の激しい情報系では、特に)、金出先生の感覚は確かなものだと感じるし、アイディアを話すコミュニケーションを通じて得た人間関係は、リサーチ生活の中では大きな財産となる。研究はオープン&レスペクトな世界なのだ。

相手の方が先に何かやる確率がもともと高かったのだ。結局、言っても言わなくても、いずれ向こうに負けただろう。この場合は、あきらめた方がよろしい

  • 独創はひらめかない
    • 私自身も独創力がある方だとは思わないが、自身の多くの研究は過去の知見、実験、経験から出てくる。

私はアイディアはひらめくというより、長い間考えた末の結果であることの方が、はるかに多いのではないかと考える

    • 周囲には天才的にひらめく人がいるが、私の場合悪いことに、自分を極限まで追い詰めないと、良いアイディアは出てこない。人との交流や、遊びを排さないと、良いアイディアにたどり着かない。つくづく心と体に悪い商売だ。
  • 研究は「研究起業」である
    • 起業するための研究ではなく、新しい研究(新しい分野)という生業を起こすという感覚。新しい生業を起こして、人を説得し、資金集めをする。

この本は、アット・ザ・ヘルム―自分のラボをもつ日のためにアット・ザ・ベンチ―バイオ研究完全指南 アップデート版とは趣を異にするが、気楽に読める本として有用である。